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ウリハッキョ
ウリハッキョ_e0011707_2330458.jpg韓国からやって来たキム・ミョンジュン監督が、「北海道朝鮮初中高級学校」を舞台に3年の撮影と1年6ヶ月の編集を経て完成させたドキュメンタリー映画「ウリハッキョ」を観てきました。(2006年 釜山国際映画祭 雲波賞受賞)

KAJA(Korea And Japan Alternative learning group)という韓国・朝鮮の文化・社会を学ぶ学習グループの主催で、東京の北区にある「北とぴあ」にて上映後のティーチインを含む約4時間のイベントに参加しました。

会場はこじんまりとした会議室(70~80名ほど)に満員の盛況でした。小さなスクリーンにDVDで投影される映像は、前の人との間隔も狭いため下の方に映る字幕は私の席からはほとんど見えなかったため、早々に後ろの壁際に移動して立ったまま鑑賞しました。2時間20分という足腰の鍛錬には打ってつけ長尺でしたが、最後まで一瞬たりともだれることなく引き込まれて観ることが出来ました。

(小学校1年生から高校3年生まで)全寮制の北海道朝鮮初中高級学校の、主に高校3年生に焦点を当てた1年間(入学式から卒業式まで)を、韓国のキム・ミョンジュン監督がともに生活をしながら追っていくドキュメタリー映画です。





※ウリハッキョは、正式な学校として認可されず各種学校扱いのため、日本政府からの援助はなく、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮連)や朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、在日同胞からの支援を受けて運営されている学校です。但し、生徒の国籍は「朝鮮」籍だけではなく、「韓国」籍や「日本」籍の生徒もいるそうです。※


子供時代(正確に言うと、生まれてから大学1年生まで)をこの会場になった「北とぴあ」の隣区の荒川区で過ごした関係で、このあたりは庭のような懐かしい場所です。「北とぴあ」の位置する王子界隈は、近くに東京朝鮮中高級学校があります。誤解を恐れずにあえていうと、当時私たちが「チョン高」と呼んで恐れおののいていた学校がまさにその学校でした。

柄の悪い不良学生を多数抱える学校は日本にも星の数ほどありましたが、チョン高の恐ろしさは、そんじょそこいらの不良が束になってかかっても歯がたたないくらい暴力的で破壊的であると、一種都市伝説的に語り継がれていました。伝説とは往々にしてそういうものですが。

今回のティーチインで司会を務めてくださったのはKAJAの顧問であり、恵泉女学園大学教員である韓国人のイ・ヨンチェ氏。実際に貴重な資料とともにお話をすすめてくださったのが東京朝鮮中高級学校をこの春卒業されたソン・ジョンキくん(現慶応大学1年生)と、同じく同校卒業のカン・ソンヘさん(現恵泉女学園大学1年生)のお2人でした。そう、まさに私が青春時代に恐れていたあのチョン高の卒業生だったのでした。

このソンくんとカンさんですが、話される内容からその態度に至るまで、この春まで高校生だったとは到底信じられない立派な青年たちでした。特にソン君の終始穏やかで真摯、かつ堂々とした物腰には、司会のイ・ヨンチェ氏も含め会場の多くの方が感嘆の声を漏らすほどでした。

お2人の話の端々にも感じましたが、本編の北海道のウリハッキョの中で繰り広げられる学校生活は、教師と生徒のあたたかい人間的な触合いに満ち溢れていて、まさにこんな学校環境や人間関係が、目の前にいるお2人の人柄をつくられた大きな要因なのだろうと思いました。

一昔前の日本にも当たり前にあった懐かしい光景は、また韓国人である司会のイ・ヨンチェ氏にとってもまったく同じ思いだそうで、「現在の韓国では、学生はお弁当を3つ持って朝の7時から夜の11時まで勉強に追われる生活をしている」現実と比べて、昔を懐かしく思いながら観たそうです。私もまさに今、わが子の学校生活を通して、失われた学校の権威やら堕ちた教師の人間性に鬱々としている毎日であり、かつて自分が子供だった頃を懐かしく思い出しているところだったので、尚更羨ましく思いながら観ました。

客席からの質問には、大勢の人がひっきりなしに手を挙げて真剣で熱い質問が飛び交いました。自分もかつてのウリハッキョの卒業生だったという方。韓国から日本の大学へ留学されている方。中国の朝鮮族で、中国でウリハッキョに通われて現在は日本に留学されている方などなど。周りがみんな韓国・朝鮮の方ばかりで驚きました(笑)。皆さん、ご自分の立場でいろいろ熱心に質問をされていて、会場の貸切時間を超過してしまい(というより、会館の閉館時間を過ぎてしまい)主催者の方が心なしか慌てていらっしゃいましたが、きっとその分皆さん満足されて帰途につかれたことと思います。

ちなみに、私の一番印象に残ったお話をひとつ。

それは、カンさんが仰った「女生徒がチマチョゴリの制服なのに、男子生徒はブレザーでいいというのは、本当の話かどうか分からないが『チマチョゴリの女生徒を守るために(動きやすいように)ブレザーなのだ』という話を聞いたことがあるが、私はそれを信じている」という言葉です。

カンさんご自身の体験として、北朝鮮が拉致を認めた頃、当時中学生だった彼女のチマチョゴリの制服が通学途中に鋭利な刃物で切られるという事件があったそうです(それでも、やはりチマチョゴリの制服は民族の意識を高めるために必要であると仰っていました)

その時に私の心の中で、やっと理解することが出来たのです。

そうか。そうだったのか。朝鮮高校の男子生徒たちがあれほど恐ろしい存在だったのは、それだけチマチョゴリの制服姿の女学生たちに対するいじめや脅迫が強かったのでしょう。それは又、日本社会から受ける圧倒的な差別の中で民族の誇りを守るためでもあったのだと。それを暴力というかたちで守るしか出来なかった当時の男子生徒たち。

でも、時代はたしかに変わりつつあります。
現にソンくんのような聡明で穏やかな朝鮮高校出身の慶応ボーイ(笑)が出現し、これからの日本、朝鮮、韓国の関係は差別や暴力ではなく、お互いをしっかり理解することで真の友好的な隣人として一歩一歩近づいていくでしょう。私が朝鮮学校を怖がっていた時代が過去のものになっていったのと同じように。

ウリハッキョについて、そこに学ぶ生徒や先生、親御さん、彼らを取り巻くさまざまな現実・・・彼らを理解することは、自分が何者であるのかも同時に理解することに繋がるような気がします。

現在、全国各地で続々と上映会の予定が組まれているようです。お近くで上映会があるようでしたら、是非足を運んでみてください。


「ウリハッキョ」自主上映・日本公式ブログ
by mario5846 | 2007-07-10 00:56 | ◆映画
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